いつともなくどこへともなく

2001年から続けている、生と死と言葉とのかかわりについて考えたことの備忘録です。

2004-01-01から1年間の記事一覧

『極西文学論―Westway to the world』仲俣暁生 著

ISBN:4794966458考えてみると「文学評論」というジャンルの本自体をしばらく読んでいなかったこともあって、仲俣暁生さんの労作『極西文学論―Westway to the world』に、かなり新鮮な印象を持った。例によって時間があまりないので、以下、思いつくまでに雑…

聖顔布

朝、公園のベンチで淡い色の空を見上げていた。目の前で紅色に色づいている紅葉の葉の上に、背の高い欅の落ち葉がふわりと乗った。高い空で、小鳥がやかましく歌っている。空といい木々といい鳥たちといい、すべてが慎ましく、また同時にひどく無遠慮に見え…

密室から抜け出ること

密室から抜け出るのは容易ではない。というのも、おそらくは自分から入って内側から鍵をかけてしまったはずの密室に、自分では閉じ込められ、外側から鍵をかけられた、と信じ込んでいるらしいからだ。この能動から受動へ、内側の鍵から外側の鍵へのすり替え…

死ぬ気で書く

死ぬ気で書く、という状態を、ごく当たり前の「日常」として、悲壮感なく、むしろ明るく生きる、ということが問われている気がする。……と、これだけでは、読んでくれている人も、なんのことだか、まったくわけがわからないだろう。書くという行為は、言語学…

■世界は無限ではない

3ヶ月以上、更新が滞っていました。文字通り「沈んでいた」状態でした。 見に来てくれていた方、すみません。 バラバラに掲載していた『テルアビブ、一九九八年』http://kakena.hp.infoseek.co.jp/TELAVIV.shtmlという小説を一つのページに、修正してまとめ…

■ロイホのビーフシチュー

今日、mixiに登録した。仕事の都合で。どういう仕事なんだか、という感じだが、事実である。で、日記を書き出したのだが、考えてみるとこのはてなのブログもまともに書いていないのに、なんたることか!と自分に憤りを感じ、mixiのほうは即日引退することに…

■美しい男たち

最近、立ち姿の美しい二人の男たちに出会った。ひとりは書店で、ひとりはウェブサイトで。出会いとしてはありふれたものかもしれない。平台に載ったある本の表紙の写真に目がひきつけられた。写真に写っていたのは、コートにネクタイ姿で夜の街に佇んでいる…

■お知らせ

■たまにはお知らせめいたことも。小説『テルアビブ、1998年』を掲載しました。タイトルをクリックすれば、まとめて表示されます。以前少しずつ載せていたのをリライトして、掲載しなおしました。ご笑覧ください。■テーマ、というかこの作品を書き始めた…

テルアビブ、1998年 (1)

小埜陽介は辛い夢から目覚めた。薄まった朝陽が、カーテンを閉め忘れた南側の窓から、掛け布団の上に細く差し込んでいるのが見えた。時計の針は五時半を指していた。夢の中身はこうだ――妻、美薗の用意した粉末状の薬物を、陽介と、みんなから「おじいさん」…

- テルアビブ、1998年 (2)

「で、いつ出発なんですか?」 「今週の土曜」 「え? 今日、木曜日っすよ」 「急な話なんだけど、って言わなかったっけか?」 「聞いてましたけど……明後日にイスラエルに行けってことですか? びっくりですよそれはもう」 その実陽介は、驚きはしなかった。…

- テルアビブ、1998年 (3)

陽介は一時五分過ぎを指している空港の時計を見ながら、自宅の腕時計の時刻を合わせた。紺色のヒュンダイに乗せられた陽介は、「紙に書かれていた他の二つの名前の持ち主は?」とタミラに訊ねた。 「二人とも昨夜テルアビブに着いています。あなたが空港に着…

- テルアビブ、1998年 (4)

三人の午後の予定は、夜六時からテルアビブの旧市街、オールド・ジャファのレストランでの会食だけだった。イスラエル商工会議所所長のラビ・イツハク・カハネ氏の招待だった。タミラはレストランの場所と連絡先を書いた紙を永館に手渡すと、脈略もなく、自…

- テルアビブ、1998年 (5)

ホテルに着いたのは、十時前だった。ロビーを歩きながら、陽介の脚は、ゴラン高原産の軽やかな白ワインの酔いが回ってもつれ、躓いた。永館も美由も、それが面白くてたまらない冗談のように笑い始めた。 一人だけ残っていたフロント係の若い、髪を短く刈った…

- テルアビブ、1998年 (6)

翌朝五時を回るころ、陽介はホテル・ルネサンスのロビーで籐椅子から立ち上がって出発しかかったときに、エレベーターから顔の前で手を合わせながら歩いてくる美由の姿を見た。 「ごめんなさーい。やっぱり無理って思ったんだけど、来ちゃった……すごく待ちま…

- テルアビブ、1998年 (7)

陽介、美由、永館を乗せたマイクロバスは、午前九時前にホテル前を出発して、ハイエメクに向かった。バスに乗っていたのは陽介たちと運転手のほか、四谷商事の中近東・北アフリカ統括部長の水沼一郎、近江製鉄の加藤康幸、そして駐日経済公使のヨシュアの、…

- テルアビブ、1998年 (8)

「陽介、電話だよ」 美薗に起こされた陽介は、立って受話器をとりながら北側の窓を一瞥して、裏の自動車整備工場に差す光の様子から、すでに正午を過ぎていることを感じた。 電話は警察からだった。警察官は、村島と名乗った。 「吉村美由さんと最後に会われ…

■ロナルド・レーガンと動物の習性

ロナルド・レーガンが亡くなった。アルツハイマーで10年も闘病を続けた末だという。とくに夫人にとっては、重い10年間だっただろう。ほんとうにその苦労が偲ばれる。しかし、テレビで彼の死が「アメリカ人がもっとも慕っている大統領の死」として報じられて…

air,plane

世界の果ての向こう側から 戻って来た誰かさんとお散歩中 あ、と空に飛行機雲 木のようにそこに立ち止まり身振り手振りとカタコト英語で air, plane と指さした * * *世界の果ての向こう側では 空はどんな色してるのだろう たたかいの炎で赤く染まったり 黒…

■「祖国」はわたしが生きるのを助けるとはかぎらないばかりか・・・

もうずいぶんまえになるが、id:aimeeさんのブログ『PEREZOSOの森 (PTSD日記)』で、チャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』(我的父親母親)が取り上げられていたのだが、あまりの痛切さに衝撃を受けた。http://d.hatena.ne.jp/aimee/20040323 これは恋愛の…

■”ポジティブ”ってなんだ?

「ポジティブ・シンキング」、「プラス思考」などという言葉でググってみると、けっこうな数のサイトがひっかかる。それぞれがもはや、言葉として認知されているということなのだろう。アマゾンのデータベースを「ポジティブ・シンキング」、「プラス思考」…

■親になることは悲しみの種であるところの想像の翼を広げる

親になってひとりの人間のことを常に気にかけなければならない状況に追い込まれれば、人は不可避的に想像の翼の幅を広げなければならなくなる、と思う。ただしその翼は、より遠いところにある悲しみを捉えるためのものだ。しかしそう思えることも、なんらか…

■恋愛で失敗し続けている人へ

恋愛にはずいぶん失敗してきた、という気がする。数多くの、とは言えないだろうけれど。むしろわたしは、自分の「恋愛の失敗」に、かなり最近まで無頓着だったということのほうを強調したほうがいいのかもしれない。いや、いまでも十分に無頓着なのだろう。…

■『伝える言葉 -テロへの反撃を超えて-』大江健三郎

イラクで誘拐された邦人3+2名は無事釈放されたとのこと。ひとまずヨカッタヨカッタ。しかし今回の件で、重い宿題が課されたようにも思う。以下、4月13日の朝日新聞に掲載された大江健三郎氏のエッセイを全文転載する(いわゆる著作権法上は問題はあるけれ…

■1979年/1995年

イラクで邦人が誘拐され、大変な騒ぎになっている。24時間以内に釈放されるとの報道もある。無事救出されることを祈るしかない。それとは関係なく、最近、少し離れたふたつの時期について少しだけ考えた。ひとつは1979年〜1981年。もうひとつは1995年だ。前…

■ralantissement〜吉田修一『パレード』について

たまには落ち着いてなにか書かなければ、と思う。では、なぜそう思うのか、と自分に問いかけてみると、答えはそれほど単純ではない。とくこのブログのように、「日記」、「覚書」という形式を使って書き物をしている人間にとっては、書くことがすなわち、立…

■行き先の書かれていない切符

ただ1分、1秒、生きているだけで、おとずれる悲しみと苦しみがある。日々ひとさじずつ、火薬が盛られているようなものかもしれない。いつかそれは爆発するかもしれない。積もれば積もるほど、爆発の規模は大きくなる。いや、最後まで、爆発せずじまいかもし…

■自由が好き?

先日コメントをくれたid:k-michiさんによる『自由を考える』の書評は、今日の自分たちがなんとなく感じている倦怠感とゆるやかな「憤り」について考えさせてくれるhttp://d.hatena.ne.jp/k-michi/20040214。以下、こちらからのコメントです。 様々な時代的危…

『国見高・小嶺総監督インタビュー 教え子への思い熱く』http://www.sankei.co.jp/databox/Wcup/html/0402/05soc001.htmがよかった。 −−理想の高校サッカー指導者像は 「グラウンド内外を問わず人間教育の場であることを認識し、自分の知識を基準にせず、選…

■枯木灘 インチキと真実の間

ぜんそくの発作がもう10日も続いている。マジで死ぬよ。 中上健次『枯木灘』 ISBN:4309400027 を通読。なにをいまさら・・・という感じだが、まぁそんなもんだ。とにかく繰り返しが多い、という印象が強く残った。蝉の声、と出てくると「あぁ、霊の修験者み…

■二葉亭四迷の言うこと

広告批評の阿部和重氏と高橋源一郎氏の対談。たがいの作品を読んで互いに感激したと告白しあうという、なんとも気持ちの悪い対談になっているのがおかしい。というか・・・『シンセミア』読まずにこの対談だけを読むのは無謀だったかもしれない。 高橋 (前…