いつともなくどこへともなく

2001年から続けている、生と死と言葉とのかかわりについて考えたことの備忘録です。

2004-07-01から1ヶ月間の記事一覧

■美しい男たち

最近、立ち姿の美しい二人の男たちに出会った。ひとりは書店で、ひとりはウェブサイトで。出会いとしてはありふれたものかもしれない。平台に載ったある本の表紙の写真に目がひきつけられた。写真に写っていたのは、コートにネクタイ姿で夜の街に佇んでいる…

■お知らせ

■たまにはお知らせめいたことも。小説『テルアビブ、1998年』を掲載しました。タイトルをクリックすれば、まとめて表示されます。以前少しずつ載せていたのをリライトして、掲載しなおしました。ご笑覧ください。■テーマ、というかこの作品を書き始めた…

テルアビブ、1998年 (1)

小埜陽介は辛い夢から目覚めた。薄まった朝陽が、カーテンを閉め忘れた南側の窓から、掛け布団の上に細く差し込んでいるのが見えた。時計の針は五時半を指していた。夢の中身はこうだ――妻、美薗の用意した粉末状の薬物を、陽介と、みんなから「おじいさん」…

- テルアビブ、1998年 (2)

「で、いつ出発なんですか?」 「今週の土曜」 「え? 今日、木曜日っすよ」 「急な話なんだけど、って言わなかったっけか?」 「聞いてましたけど……明後日にイスラエルに行けってことですか? びっくりですよそれはもう」 その実陽介は、驚きはしなかった。…

- テルアビブ、1998年 (3)

陽介は一時五分過ぎを指している空港の時計を見ながら、自宅の腕時計の時刻を合わせた。紺色のヒュンダイに乗せられた陽介は、「紙に書かれていた他の二つの名前の持ち主は?」とタミラに訊ねた。 「二人とも昨夜テルアビブに着いています。あなたが空港に着…

- テルアビブ、1998年 (4)

三人の午後の予定は、夜六時からテルアビブの旧市街、オールド・ジャファのレストランでの会食だけだった。イスラエル商工会議所所長のラビ・イツハク・カハネ氏の招待だった。タミラはレストランの場所と連絡先を書いた紙を永館に手渡すと、脈略もなく、自…

- テルアビブ、1998年 (5)

ホテルに着いたのは、十時前だった。ロビーを歩きながら、陽介の脚は、ゴラン高原産の軽やかな白ワインの酔いが回ってもつれ、躓いた。永館も美由も、それが面白くてたまらない冗談のように笑い始めた。 一人だけ残っていたフロント係の若い、髪を短く刈った…

- テルアビブ、1998年 (6)

翌朝五時を回るころ、陽介はホテル・ルネサンスのロビーで籐椅子から立ち上がって出発しかかったときに、エレベーターから顔の前で手を合わせながら歩いてくる美由の姿を見た。 「ごめんなさーい。やっぱり無理って思ったんだけど、来ちゃった……すごく待ちま…

- テルアビブ、1998年 (7)

陽介、美由、永館を乗せたマイクロバスは、午前九時前にホテル前を出発して、ハイエメクに向かった。バスに乗っていたのは陽介たちと運転手のほか、四谷商事の中近東・北アフリカ統括部長の水沼一郎、近江製鉄の加藤康幸、そして駐日経済公使のヨシュアの、…