いつともなくどこへともなく

2001年から続けている、生と死と言葉とのかかわりについて考えたことの備忘録です。

男は夢を見た

02/07/21(日)晴れ。01:35:51
男は夢を見た−−

ブラジル人の友人が国に帰ることになった。
「結局、一度もいっしょにサッカーしなかったね」
「まぁ、いつの日か、ということで」
「元気で」
「元気で」
バスの見送り。

喉が渇いていた。

確か麦茶を入れたボトルが1本しかなかったはず。冷蔵庫の扉を開けると、3本あった。Nは、いつの間に買い足してたんだろう。

とにかく、俺も帰らなきゃ。

井の頭公園の中を歩いていくと、ホモの金子と鉢合わせ。ヤツはニッコリ笑いながら、プラスチック製でくもの巣のような、直径1mほどの円盤を自分の前に振りかざしながら近づいてくる。おいおい。追いかけてくるぞ。「くもの巣」をこちらに発射したりしながら、走って追いかけてくる。俺は、律儀に「くもの巣」を投げ返しながら、走って逃げる。でもヤツは結構足が速い。すぐ追いつかれそうになる。

公園から住宅街に出る坂道がいくつかある。俺はある道を曲がろうとし、でも1本もどって曲がる。まだまだついてくる。本当はまっすぐ行って突き当たりを左、さらに突き当たりを右、次も右、次も右、次を左に曲がって突き当たりが俺の家、という道順が正しい。しかしヤツを巻くために左側のマンションに突入する。外廊下を走って外に出ると、なぜか近道できていたようだ。ヤツは追って来ていない。

通りすがりの、ひどく小柄な中年の男が、なんとも憎ったらしい顔つきで、こっちを睨んでいる。睨むばかりではなく、手近にあった空瓶をこっちにむかって投げてきた。瓶は50cmほど離れたところに落ちた。

「どういうつもりなんだよ」
「なにが」
「こっちに向かって瓶投げんなよ」
「そっちに向かって投げてるわけじゃねえ」
居直りやがった。ひどく腹が立った。
「どう考えたって、俺に向かって投げつけてるだろうが」
オヤジは、相変わらず俺を睨みながら、また瓶を投げてきた。
「おい!」
俺は瓶を拾い上げ、瓶の首を握ったまま、路肩の角めがけて振り下ろして割った。角の立ったところをオヤジに向けて突きつけ、威嚇した。「いいかげんにしろ」
オヤジはひるむ様子もない。まったくイライラさせられる。だいたいなんでこんなに何本も、空瓶が転がってるんだよ、この道には。

道沿いの家の、芝の生えた広い庭が、金網越しに見えていた。庭の中の、道から2、3mといったところにくず入れが置いてあって、瓶が何本も放り込まれていた。

「同じように、ここで瓶を拾うか、投げつけられたやつが、あそこに放り込むんで、あんなにいっぱいになってるんだろう」

俺はそう思って、その辺に落ちている瓶を何本か、金網越しにくず入れに放り込んでやった。オヤジは少しヘコんだようだった。

よく見るとオヤジは、そのすぐ隣りの家の車庫の脇に、鎖で首をつながれていた。犬みたいに。その鎖を見つけて、俺はかなりうれしかった。これでいくらでも、この薄汚いオヤジを懲らしめられる。鎖を掴んで、オヤジの首を締め上げようとした。

最初はうまく締まらなかった。さらに鎖をたぐって襟首をつかもうとしたがこれもうまくいかない。おやじはダブダブの、ランニングシャツを着ていたのだ。

となりの家から、20代後半くらいの女が道端に出てきていることに気がついた。女はなんと、全裸だった。物静かな雰囲気の女だ。眉毛が濃くてまつ毛が長い。典型的なお嬢様タイプ。どこかで会ったことがあるのに、思い出せない。

女は切なげな顔を見せながら、こちらに尻を向け、こともあろうに、ものすごい勢いで排便しはじめた。出てきたおびただしい量のウンコを、自分の手で掬い上げて、自分の肌に塗りたくっている。納豆の大豆のようなツブツブの残ってネバネバとした、見るからに胸糞の悪くなるウンコだ。心なしか、ウンコ臭いというよりは、すっぱいような匂いが漂ってくる。

女が俺に向かって口をきいた。

「その男、ちょうどいいんじゃないかしら?」

俺は、どういう意味か、すぐに合点した。鎖を引き、オヤジを女のすぐ脇まで手繰り寄せた。オヤジは幸せそうに笑いながら俺に従い、すぐに女の背中に付着したウンコを舐めはじめた。

俺はたまらない欲求不満に陥った。オヤジをとことんまで殴りつけたかったのに。俺は二人を後にして歩き始めた。

突き当たりの家についた。1階には、枕をふたつ並べた布団がきれいにセットされ、誰もいない。2階には梯子で上る。少ないライトで照らされた部屋の中を見下ろす。というか、ライトの位置が少し変っていることに気づく。昔からの友人のS、T、別れた妻のAらがたむろしている。天井近くで部屋の様子を見下ろしながら、俺は結局床には下りず、彼らの集まりに加わらなかった。